何もないということ。

    自分に何もないこと、ただ一人、裸の自分がいて、そこには何もない。それを感じるから、それを見たくないから、自分に肩書きを付け、良い服を身につけ、羨望の眼差しを期待する。
    自分はこれを持っている。それは、知識を含めて、これを所有している。それ故に、私は偉いという人との比較、また自身が描く自分のイメージとの比較。何かを所有したいのは、何もないという寂寞感、卑小さ、そういうものを見たくないからなのだろう。
    所有物以外に誇るものがないから、肩書きを欲しがり、人に命令する立場を欲しがる。そこにあるものは、自分に力があると満足感を与える空虚なイメージと、事実としての権力だが、両者は別であることに気がつかない者もいる。肩書きを欲しがる人は、自分が持った肩書きに執着し、それを子供が得たミニカーのように見せびらかす。その姿、当人は気が付かない。互いにそれを褒め合う仲間というものもあるから、当人はそこに気がつくこともない。
    自尊心と所有、そこには結びつきがある。所有しない者は、自尊心を傷つけ、物で所有できなければ精神的なものを所有したがる。そのような物など、イメージに過ぎないにかかわらず、そこに逃避する。
    裸の自分には、何もない。それを直視しよう。所有物は私ではない。私が所有物になるところに、私の空しさが現れていることを見よう。