「もてる男」の実在論

  高校生の子の教材の中に、以下のような話が載っていた。タイトルが面白いので、そんな秘訣があるなら知りたいと読んでみると、

  「もてる男」の秘訣とは、
  それほど男前でもない男が多くの女性と仲が良いのを不思議に思った友人が、「君は何故そんなにもてるのか」と訊いた。
  「たくさんの女性に声をかけるのさ、中にはデートしてくれる女性もいるからね。」という答えが返ってきた。
  
  というような話が載っていた。私としては、秘訣じゃないじゃないか、と子に言った。以下はそのやりとり

父  なんだ、秘訣になってないじゃないか。
子  見た目がよくなくても努力するのが秘訣なんだよ。
父  もてるということとは違うんじゃないか。もてるのは、受動的なことで自分が動くようなことじゃないと思う
  けど。
子  「もてる」の意味は、辞書では「異性からちやほやされること」だけど、自分で声をかけて好きになってもらっ
  たことももてるでいいんじゃないの。
父  A君がもてるというのは、10人つきあっている女性がいるとしても、9990人の女性に断られたとしたら、
  それでも、もてるというのかい。
子  10人の女性とつきあっているという現象があるならもてるでいいんじゃない。たくさんの女性とつきあって
  いるんだから。
父  B君がいて、彼は自分から女性に声をかける勇気がなかったけど、まわりの女性が皆、彼のことが好きだ
  った。てこともあるよ。同窓会に行って、クラスの女性の大半が彼のことが好きだったってことが後から分か
  ったというようなこと。
子  その事実は、当時だれにも分からないだろ。それは神の視点があれば、B君はもてると言えるけど、誰にも
  分からないもてるよりは、断られても努力を続けるA君の方がもてるんじゃない。
父  もてるというのは、好かれているという受動的な状態を指すのであって、多くの女性とつきあっているとい
  うこととは別だと思うよ。
子  見た目がいいとか、金持ちだとか、もてる人がいるけど、どうして努力はもてるの条件に入ったらおかし
  いの。努力も含めてもてるの意味だと考えたらいいと思うけど。
父  本当にA君はもてるのか、もてないのか。もてる男の集合を作るとしたら、A君はもてる男集合の要素に
  入るんだよね。もてる男集合を作る規約は、1人でも女性とつきあっている人だろうか、そうすると集合は巨
  大になりすぎるよね。10人の女性とつきあっている人ということだろうか。集合を作る規約にするには、何人
  とつきあっているというよりも、多くの人から好かれているという規約が必要じゃないかな。これも何人という
  ことはできないけど。
子  数学の集合のように考えるのは無理があるんじゃない。
父  じゃあ、タルスキという論理学者が考えたT規約という真理を作る文に代入してみるよ。
   「もてる男」が日本語において真であるのは、異性からちやほやされる人間の雄のとき、そのときに限る。
子  何も言ってないじゃないか。
父  ん。やってみたけどトートロジー、循環論法に過ぎないな。このT規約は、真理を定める規約とか、そうでな
  いという意見もあるんだ。やはり真理を定めることはできないのかな。後は、やはり集合の規約の線で考
  るしかないかな。国語の先生と数学の先生の共同でやってもらえば。
子  もてる男は、そのままの意味ではたくさんの異性からちやほやされているということだけど、次元を一つ
  上げて、努力も含めてもてる男でいいんじゃないかな。努力が入らないとか、起きている外見的な事実でなく
  て、誰にも分からない好かれていることのようなもてるより、起きている現象がもてるじゃないの。
父  そう言われると、そういう考えもありかなと思うけど、現象には意味があって、同じ現象でも違う意味があ
  る時、もてるというのは意味だと思うんだけど。
子  金を失くした。と言う時に、財布を落とした。ということと、一万円を使って買い物をしたという時のようなこ
  とだろ。
父  そう、そのとおり、現象だけでは意味が捉えられないから。もてる男の意味は、やはりキムタクとか長瀬君
  とかいうような。女性から好かれるような人の意味だと思うんだよ。
子  でも、それを努力でカバーするともてるでないというのも、納得できないよ。見た目はOKだけど、努力はダ
  メって。
父  それは、もてる人の条件であって、もてるの意味とは違うからね。でも、もてる男の外延(集合でいう要
  )は、もてるという内包(規約)と無関係と言えないし。もうこのあたりになると、もてるということから、世界を
  どう見てるのか、本当のもてる世界があるのか、外見的なもてる世界があるのか。どちらの世界を選択す
  るか、信じるのかという話になるかな。
子  僕は、努力を信じるよ。