父と子の夕食での会話 確率その他言葉の力

 
子 映画の時、毎回服を一枚持たされるの、うざい。服がじゃまなだけ、使ったことが一度もない。
 
父 子供に「うざい」と言われるのとても「うざい」な。
  映画館で寒くなったら困るだろ。
 
子 10回以上映画に行ったけど寒かったことは1回もない。
 
父 11回目の映画館が寒くないことは、過去の10回の経験からは言えないだろ。
 
子 それなら、先生は宿題をいつもしてこない生徒に、宿題を忘れるなと言えないよ。
 
父 簡単に予想できる悪い方の事態を想定して準備しておくのは、映画館に服を1枚持って行くのと同じ態度だよ。悪い方を予想して準備して助かったことは今までにあるだろ。保険と同じで使わないでいいんだよ。
 
子 映画では一回もない。服を余分に一枚持って行けというのは、高い保険に入れと言ってくるのと同じだよ。
 
父 そんなに、映画館に服を持って行くのがいやなら、君がこれからデートをする時に服を1枚もって行かずに行けばいい。お腹が痛くなることを祈っておこう。
  君がデートの時に寒くてお腹が痛くなりますよう~に。合掌
 
子 デートの時は、1枚服を持っていくよ。用意と比べてリスクが大きすぎるだろ。
 
父 デートの時と比べて、父と行く時は、リスクが低いということかい。父と映画に行くことははデートと比べて値打ちがないのかい。父はひょっとしたら明日に事故や脳梗塞で死んでしまうかもしれないよ。誰もが、等しく明日死ぬかもしれないよ。
 
子 明日死ぬことは決まっていないだろ。
 
父 明日死ぬ確率はとても低いし、誰も明日死ぬとは思っていないよ。でも死んでしまった人、分数の分子になった人は分母の確率は問題にならないよ。このために、毎回準備しておくんだ。一期一会というのはこういうことを言うんだよ。
 
 ここで中断した。デートと比べて父に値打ちがないことは、明白なのだろう。私もそうだ。理屈ではないがデートが大事だ。
 子は、まだデートをしたことがないと思う。初デートの時にお腹が痛くなるように私がお祈りしたことで、子はとても動揺し、その時が来たことを考えて身震いしたようだ。
 
 私の大人げない悪意を持った祈りの言葉に、不気味な力を感じたのかもしれない。
 子が、デートの時に本当に服を忘れなければいいが。その頃には、私の言うことは聞かなくなっているだろう。
 どうか自分で気がつきますように。