パン屋での出来事

  昨年末のことだった。近くのパン屋でパンドカンパーニュを一つ買おうとしたら、何やら店主がバイトの店員に注意している。このパンは、よく先に買われているか、焼き上がりが15分後とか、あまり買えないことが多いのだ。
 その日、「パンは予約が入っておりお売りできません。」と言われた。レジに持って行っての話なので、私が悪いのではないが、買えないので、不満げにそのままパンを買うことなく店を出た。翌日に食べるパンだったので、違うパンは要らなかったのだ。
  今年になって、妻がそのパン屋に行くと、店主の奥さんに詫びられたと言う。その時は腹は立ったのだが、家ではこんなことがあったと言ってなかったので、妻には何のことかわからなかった。妻と一緒にその店に行ったのは、何年前か分からないのだが、妻と私が夫婦だと憶えていてくれたのだ。
  よく、自分探しに出かける人がいるが、こういうところに自分が見つかるのだと思う。私は、手にしたパンが買えなかったことで腹を立てた。バイトの子が謝っているのだが、「いいよ」という言葉の一つもかけてやればよかったと思うのだが、そういうことはできなかった。というかその時は考えもしなかったし、もうこの店に行くの止めよかなとさえ思ったくらいだ。
  一方、店の人は商売なのだが、何年も私のことを見ていた。誰が妻かも覚えているし。
  年末のことを妻に詫びたということを聞いて、自分自身、少し恥ずかしいと感じた。妻に言われたことが恥ずかしいのでなく、ただ自分の態度が恥ずかしいと思ったのだ。自分の気がつかないところで、人は自分を見ているし、自分の行動、行為に自分が現れている。悪いことをした訳でもないのだが、これが、本当の自分なのだと思う。